彼らの日常はボーダーラインすれすれでバランスを保っていた

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  《長男:知宏》 白い封筒に、自分の名が書かれている――名前のみが。 榊知宏は、運悪くその封筒を見つけてしまった。 先に家族の誰かが見ていれば、その先の運命は全く違っていたかも知れない。 恐る恐る開封すると、中身は案の定、身に覚えのないカードだった。 ――本当だったのだ、あの噂は。 よもや、自分の身に降りかかってこようとは。 噂はただの噂だからこそ面白い。 何もせずに金が入るなんて美味しい話だとか、もしそうなったら何に使おうなんて妄想ににやけることが出来る人間もいるのかもしれない。 他人事ならば何とも思わない。 噂自体よりもむしろ、その噂に振り回される人々の声の方を楽しんでいた。 噂の真偽には興味がなかったし、まさか自分の身に起こるとは露とも考えたことが無かった。 だが実際に目の前にその現実を突きつけられた時、彼は冷静でいられる種の人間ではなかった。 『そのカードはどこからともなく送られてくる』 『白い封筒に入っていて、封筒には名前のみが記されている』 『プリペイドカードらしい。入っている金額は人によって異なり、使ってみなければ分からない』 『受け取った人間は、半年後には必ず死ぬ』 彼は受け取った。 【リミットカード】は噂通り、どこからともなく、何の前触れもなくやってきた。 ――僕は、半年後に、死ぬ。
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