彼らの日常はボーダーラインすれすれでバランスを保っていた

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榊知宏は、引きこもりがちで気が弱くマイナス思考の強い人間だった。 外出は夜中、たまにコンビニへ出かける程度だ。 白い封筒は、家を出た時には全く気付かなかったが、帰ってくるとポストから半分顔を出した状態で知宏を待ち受けていた。 住所の書かれていないその封筒が、直接ポストに入れられたのは間違いなかった。 夕方までにならば母親が、夜までになら父親が気付いて回収したはずである。 今この時間にポストにあるということは、知宏の帰宅を狙って投函されたようにも思われた。 しかもご丁寧に半分はみ出しているところからは、普段はポストなど確認することのない彼――封筒の宛先である彼自身に、何が何でも発見させようという強い意思の様なものまで感じられた。 果たして彼は、その何者かの思惑通りに白い封筒を手に取り、そして中身を確認した。 半分死んだような人生を送ってきた彼ではあるが、自分の死期を明確に知ると同時に絶望に襲われた。 それから今の状況を顧みて、恐怖を覚える。 どこかで監視でもされているのか。 行動パターンも読まれているような気がした。 脅えながら家に入った彼は、長年染み付いた習慣通りに自室へ閉じこもった。
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