彼らの日常はボーダーラインすれすれでバランスを保っていた

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突然舞い込んできた金――とは言え、金額はカードを使ってみなければ分からない――に浮かれるようなのん気さは知宏にはない。 元より彼は金の使い道も知らないのだ。 例えば生きるために――電気やガスや水道を使ったり、物を食ったりするために――金が必要なことくらい知っているが、それを支払うのは両親である。 夜な夜なコンビニへ出かけて何をしているかと言えば、成人誌の立ち読みだ。 彼には自分で金を払って物を買うという概念自体がなかった。 ましてや彼には、この状況を相談できるような相手もいなかった。 父親の顔はもう何年も見ていないし、母親は食事を持ってくる時にドア越しに声を聞く程度だ。 最近夜遊びをするようになった妹とはたまに顔を合わせるが、何も言わずに白い目を向けてくるだけである。 当然、彼に友人付き合いはない。 日常インターネットを彷徨い歩いてはいるが、電子回路を介してすら、知宏は誰とも交流しようとしてこなかったのだ。 半年後に死ぬ。 それは確かに彼を絶望させたが、それよりももっと彼を脅えさせているのは、どこかで自分を監視しているだろう何者かの目だ。 彼は真っ暗な自室で膝を抱えて脅えながらその夜を過ごした。 そして空が明るみ始めた頃に、限界点を越えた。
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