彼らの日常はボーダーラインすれすれでバランスを保っていた

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翔子は目覚ましが鳴る直前まで、目を開けたまま布団の中でじっとしていた。 もう一度寝る気はなかった――眠れる気がしなかった。 けれど、下手に動いて物音を立てるほうがよっぽど怖かった。 秒針のコチコチという音にじっと耳を澄ませ、時が経つのを数えた。 1時間ばかりそうして、その音に混じって少しだけ大きなカチッという音がした瞬間に目覚ましに手を伸ばす。 定刻にセットされていたアラームは、コンマ1秒も鳴らなかった。 夫は変わらずに寝息を立てている。 それを確認すると、漸く彼女は解き放たれたように息を吐き出した。 ――これで……これで、いつも通りだ。 静かに布団を抜け出し、手早く着替えて朝食の準備を済ませる。 その後時間通りに合図のように洗濯機を回し始めると、その物音で夫が起きるというのがこの夫婦の日常だった。 夫、榊洋介がリビングに顔を出す時には、既にスーツを身に着けている。 「おはようございます」 席に着いた洋介に落としたてのコーヒーと朝刊を届け、挨拶をする。 予定調和のその流れに、夫は満足げに薄ら笑いを返して眼鏡のフレームを直した。
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