彼らの日常はボーダーラインすれすれでバランスを保っていた

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  《長女:彩香》 榊彩香は、昼過ぎに漸く階下へ降りた。 ぼさぼさの髪を掻きながら寝巻のままでリビングに入り、掃除を終えてひと息ついていた母親を見るなり開口一番怒鳴りつけた。 「あの根暗変態野郎、朝っぱらから何吠えてんの!? いい迷惑なんだけど。ちゃんと躾けておいてよね!」 八つ当たりだという自覚は全くなかった。 夜明け前に帰宅して漸く眠りについた頃に隣室の兄が騒ぎ出したのは、彩香からしてみれば母親のせいなのである。 「どうにかしてよアイツ。マジでもう死ねばいいのに!」 ガタンと大きな音を立てて椅子を引きそこに座った彩香は、向かい側の椅子に片足を投げ出す。 ここで行儀が悪いだのなんなのと難癖つけられたら更に怒鳴り散らしてやるつもりだったが、もう諦めているのか母親は何も言わなかった。 だが、無言で吐かれた小さな溜め息が癇に障る。 ――ぐじぐじしやがって。言いたいことがあるんならはっきり言いやがれ! 兄がああなったのは全て母親のせいだ、と、彼女は足を乗せた椅子を腹立ち任せに蹴って揺らした。 自己主張も出来ずに引きこもってねちねちとした陰鬱な思考を展開させているだろう2人は良く似ている。 見ているだけで、同じ空間にいると思うだけで苛々した。 ――死ねばいいのに。 最近ではこの言葉が、彼女の心の中の口癖になりつつあった。
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