プロローグ

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──噂どおりだった。 友人のあいだで、この大学の「都市伝説」のようにまことしやかに言われている話。 火曜日の夜は、研究棟の、第二研究室のとなりの備品庫の施錠が甘い。そこの薬品棚も。 だから、どんな薬でも持ち出し自由──。 まさかとは思っていた。 それに、たとえそれが事実でも、そこから実際に薬品を盗み出すのは困難だろうと。 しかし、夜遅くまで実験をしている研究室も多いらしく、研究棟に入ること自体は造作もなかった。白衣と伊達眼鏡で変装もしたが、その必要すらなかったかもしれない。 誰も、自分と実験以外に興味はないのだ。 備品庫に入り、電灯をつけると、薬品棚はすぐわかった。丁寧にラベルがきちんと貼ってある。こういうところは、さすが理系の人間だ。 だがそれが裏目に出ることもあるのだと、彼らは知ることになるだろう。
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