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「いえ?私はただの一般人です」
晴臣に微笑みかけられたが彩はにこりともせず冷静にさらりと答えた。
晴臣の甘い視線に彩は全く動じない。
こういう場合、『そんな・・・有名だなんてっ』と謙遜しながら頬を赤らめる・・・晴臣に話しかけられた女子は大抵こうなるはずなのだが・・・
「そういえば転入初日だっていうのに男と話してたな・・・知り合いでもいたか?」
― ・・・ちょ、前田さんの前でそういう事言わないでよっ
前田さん堅そうなのに転入初日からさっそく男と・・・なんて誤解されそうじゃないっ!
まあ・・・でも・・・どうやら兄様はあの喧嘩の場面は見てないみたい。
良かった~投げ飛ばしたところ見られてなくって・・・
あんなの見られたら兄様になんて言われるか・・・
「あ~・・・えっとサボろうとしてた男子に注意していただけよ?結局逃げられたけど」
「ふーん?じゃ俺行くわ、次体育だからまたな!」
「うん」
晴臣は目の前の階段を先に駆け上がって行った。
我が兄ながらイケメンだな・・・
桃花は晴臣の後ろ姿を見て思う。
《恭鳳堂》のPRで雑誌の対談に出た後、女性読者からの反響があまりにも大きすぎて、気を良くしたお父様が晴臣兄様に新しく立ち上げたカフェ部門をプロデュースさせたんだけど・・・
和菓子を洋風にアレンジしたスイーツを提供する『陽カフェ―harucafe』の第1号店は晴臣兄様の功績で予想を上回る大人気で高校生なのにすでにお父様の右腕的役割をしている。
桃花は晴臣を見送りつつ、複雑な気持ちだった。
私は兄様のように頭が良いわけでもないし《恭鳳堂》を大きく成長させる経営者として相応しいものは何も持っていない。
だから・・・いつか晴臣兄様の役に立ちたいとは思ってる。
・・・だけど
いつも笑っている楽天的な桃花にしては珍しく考え込んでいると、どこからかピアノの音色が耳に入ってきた。
華やかで流れるようなアルペッジョ・・・
・・・これ・・・って
「リストの『ため息』・・・?」
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