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よく見ると塀と垣根の境目に壊れている部分があり、枝や葉で覆われているから分かりにくいが、人ひとり通れるくらいの穴がぽっかり空いていた。
腕を通してその穴を確認して桃花も上半身を入れてみる。
垣根の向こうは学園のすぐ外の歩道で、ここは正門と逆側だからうちの生徒もほとんど通らないため人目につきにくい。
歩道にはすでに降り立った成宮がズボンに付いた汚れを払っていると、桃花が髪に何枚も葉っぱやらゴミくずをつけて垣根の穴から顔を出したのをみてギョッと驚いた。
「ええ~っ?こんなところに出はいりできるところあるのっ?・・・やったあ~っ!」
校門から入るよりここから入った方が近いじゃない?
ふふっ、これからここ使わせてもらおうっと!
思わぬ所に近道を見つけて桃花は上機嫌でいつもの口調になっていた。
「え・・・」
― なんだ?この女・・・
見た目とイメージが全然違う・・・
さっきは高飛車な感じだったのに今は普通じゃないか?
「なにやってるんだっ桃花!今日から転入だろ?遅刻するぞっ!」
声がする校舎の上を見上げると、2階の窓から上半身を乗りだして晴臣が叫んでいた。
「兄様・・・っ?」
― やばっ!変なとこ見られた~っ!?
どこから見られてたんだろ?・・・後で怒られる~っ!
桃花は慌てて乱れてしまった長い髪を手でささっと直す。
「早く職員室行け!1階の右奥だからな?」
「兄様ありがとうっ!」
「・・・桃花?」
成宮が疑問に感じてその名前を呟く。
転入初日だっていうのにうっかりして時間見るの忘れてたっ!
左手につけたブレス型の腕時計を見ると、8時25分・・・
さっきの予鈴だったの?
あと5分・・・間に合う?私っ!?
「で、ではっ失礼するわ。ごきげんようっ!」
桃花は塀の向こう側にいるだろう成宮に向かって声を掛けると、踵を返して駆け出した。
「おいっ」
桃花に向けて発した成宮の声は学園の塀の向こうからは届くことはなく、桃花はその声に気付かずに全速力で走って行った。
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