1、青磁の香炉

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私、那月は他の人とは、少し違うものを見てしまうせいで家族とあまり良い関係を結べませんでした。 そんな私を見かねてか、弟子として側に置いてくださった師匠こと大伯父と、従兄弟の十夢と山の中で暮らしています。 けっこうな山ですよ。 しかし、他人に接する機会の少ないこの場所は、私のような人間にはとても過ごしやすい所なのです。 余計なものを見ないで済みますからね。 そんな一歩間違うと遭難するような、地元の人でもあまり奥には入ってこない、そんな所にポツンと建った古民家に、男3人で暮らしています。 むさ苦しい? そうですね、十夢のせいでかなり暑苦しいですね。 いつの間にか、後ろに来ていた師匠がぼそりと言いました。 「十夢、今日は薪割りでもしておけ」 「えぇ~?なんで俺だけ……」 「お前はもう窯に入れられるだろうが。那月は釉薬を掛けてしまえ」 「はい」 こんな山の中でどうやって暮らしているかと言うと、如月賢三師匠の陶芸によって生かされています。 私と十夢は、その弟子ですね。 そして今師匠が言ったように、窯に火を入れる日が近づいていました。 昔ながらの登り窯は、三日間火を焚き続ける為、山程の薪と鬼のような体力が必要なんです。 筋肉バカの十夢には、おあつらえ向きの仕事と言えるでしょう。 いえ、私も決して貧弱な体をしている訳じゃないんですけど、あの体格は日本人のそれとは違いますからね。 さて、あのお姉さんも静かなようですし、ここはさっさと仕事をしてしまいましょう。
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