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だって、ちっとも満足というものをしないのだもの、と自分に言い訳をした。
次、また次と欲深くなっていく。
加奈江は、今、一番欲しいものを政には伝えていない。
まだ、言えない気がしている。
でも。
私、子供が欲しいの。
彼は時が来たらと言っていた。
その言葉を裏付けるように幾度も重ねられた夜の時、昂ぶった最中であってもきちんと律儀に『男の義務』を守っている。
加奈江のことを思ってのこととは、彼女にも良くわかってる。
でも、でも。
人間にも、末を拡げる本能があるのだとしたら、今の私は子を産んで育てたいと願っているのだ。
彼女の、彼の望みが叶えられるのはいつなのだろう。
秋良が遠くで笑う声がする。
その声を、政も聞いているはず。
あなた、どう思ってる――?
加奈江はお茶うけを運ぶ廊下の真ん中で、庭の上に拡がる空をぼんやり見上げていた。
ひこうき雲がまっすぐに白い線を引いていた。
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