【1】あたらしい家族

9/11
前へ
/133ページ
次へ
だって、ちっとも満足というものをしないのだもの、と自分に言い訳をした。 次、また次と欲深くなっていく。 加奈江は、今、一番欲しいものを政には伝えていない。 まだ、言えない気がしている。 でも。 私、子供が欲しいの。 彼は時が来たらと言っていた。 その言葉を裏付けるように幾度も重ねられた夜の時、昂ぶった最中であってもきちんと律儀に『男の義務』を守っている。 加奈江のことを思ってのこととは、彼女にも良くわかってる。 でも、でも。 人間にも、末を拡げる本能があるのだとしたら、今の私は子を産んで育てたいと願っているのだ。 彼女の、彼の望みが叶えられるのはいつなのだろう。 秋良が遠くで笑う声がする。 その声を、政も聞いているはず。 あなた、どう思ってる――? 加奈江はお茶うけを運ぶ廊下の真ん中で、庭の上に拡がる空をぼんやり見上げていた。 ひこうき雲がまっすぐに白い線を引いていた。
/133ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加