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「やってみなさいな」
「お義母様」
「ここは、いずれあなたに明け渡す所になのだから、若いけれど、早すぎることもないでしょう」
私、この人を嫌いになれない。
加奈江は思う。
義父が何故外に女の人を囲い、そちらを重く大切にするのか。
人の感情がなせることだから良いも悪いも言えるわけがない。
夫が義母を遠ざけるのもよくわからない。
男の人は――本当にわからない。
加奈江が寄せる政への愛情は、薄まるわけでもないけれど、全部を飲み込むように受け入れ、認める時間は過ぎたのか、と彼女は思う。
溝ができたからではない、遠慮なく、何でも言い合いぶつかり合う関係のとば口に私たちは立った。
でも、きっと。
私は政に全てを受け止められて、許されて甘えてしまうのだろうな。
彼は私を愛してくれる。
私の弱点も憎しみも全て。
「愛している」とはっきりと口にしてくれたことは一度もないけれど。
やさしい感情で包み込まれる安心感があるから、私は彼から離れられない。
このやさしさを――
お義母様にも向けてほしいの。
少しでも。
だって。
あなたのお母さんでしょう?
コンロにかけた両手鍋から湯気が立つ。
今日は姑が夕ご飯を作る日。彼女が作る総菜は、政が好きなものだった。
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