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自宅で教室を営むとなると、彼女の出番も増えることになる。
政が手伝ってほしいと言った、彼の期待に応えるために、忙しい合間を縫って書道教室へ通った。ほったらかしになっていた技量を見直すために。
同時に自営業の何たるかを一から学びなおした。
大学での学習は理論が先走っていたので、自分の身に引き寄せた学びが必要だった。
どちらかというと実務的なことは苦手な政と、実務家向きの加奈江。書類ひとつであれこれ迷ってしまう政を適切に補佐できる立場にいる加奈江は、良い具合で噛み合っていた。
広い家でぽつねんと彼の帰りを待つ生活を想像していた加奈江も、こうも変わるものかしらと思った。
実家では彼の母、房江と顔を付き合わすことが当たり前に多かった。
父の慎は自宅にいたりいなかったり。
それでも、若夫婦が引っ越しした当初は努めて家に帰るようにしていたようだったけれど、一日おきが二日おきになり、週の大半は開けるようになっていった。
いつもなのか、これが普通なのか、加奈江にはわからない。でも、彼の父が家に寄りつかず、拠点は別にあることを裏付けることになっていた。
そして、同時に離婚話が絵空事ではなく現実味を帯びていることも。
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