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2011年・3月――――東京。
……なんだ……この騒々しく頭に響いて来る音は………
…泣き声?……幼い女の子の泣き声なのか……
母親に叱られた子供が泣いているのか……
それとも、またいつものように小児科病棟の子供が、点滴の針を怖がって泣いているのか…
…それにしても、いつまで火がついたように泣いているんだ?これでは、涙と一緒に声まで涸れてしまう。
深い眠りから強制的に現実の世界に引き戻す、叫ぶような子供の泣き声。
ここは当直室なのか……いや、違う。ここは自分の……
「……咲菜!?」
ようやく目を覚ました俺は、夢の中で聞いていたその声が娘の泣き声だと認識し、飛び上がるように布団を跳ね退けた。
目を覚ました瞬間から不快な動悸が胸を叩き、額には冷たい汗を感じる。
慌ててベッドから足を下ろし立ち上がると、まるで地に着いていないように足の力は入らず、鉛のように重く感じる体は一瞬よろめいた。
午前5時を指す目覚まし時計は沈黙を保ち、カーテン越しの空は未だ深い闇に包まれている。
今日の睡眠時間も3時間か……
臨床医の業務を終えてから、毎晩遅くまでラボに籠って帰宅しても論文書いて、大学の当直の他にも月に3日は他施設の当直やって…
―――毎晩これじゃ、マジで俺、倒れるかもな。
疲労に耐えられる限界域を既に越していると感じながら、睡魔の抜けてくれない体に鞭を打ち、大声で啼泣している娘のもとへと走った。
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