1 笑えない妃

2/13
前へ
/354ページ
次へ
「――――私はあなたを正妃にと望みました。あなたの国の伝承は興味深い……それとシラーの力も解き明かしたいのです」 初めて会った男は、私がもっとも嫌う力の話を持ちだした。 我が国に伝わる神秘の力の話を。 しかも、満面の笑みを浮かべて。 男の不愉快な言動に顔色一つ変えることなく、目の前に置かれていた茶器を手に取り口元へと近づける。 男に気付かれないように香りを嗅ぎ、不審な何かが入っていないか確かめる。 (エリカ……わずかですが、毒草の一種が混じっています。飲なまいで下さい) 男とは違う別の声が、頭に直接響き警告を鳴らすが、それには構わず一気に飲み干す。 (エリカ!) 酷く焦った声が聞こえ、男の背後で控えていた侍女達が、お互い目で合図を送ったことを確認し茶器を戻す。 「もう1杯下さる?」 男を無視して侍女にそう言うと、何人かがビクリと身体を揺らした。 .
/354ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3722人が本棚に入れています
本棚に追加