1 笑えない妃

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わずかに動揺を見せる一部の侍女達とは違い、近くに来たのは黒髪を結い上げ、表情が読み取れない黒い瞳の長身の侍女。 わずかな動揺も見られない。 この茶の中身を知らないのか、それとも知っていても表情を変えないのか、その黒い瞳からは何も伺えない。 「それと、私はあなたを愛すことはないでしょう。私には心に決めた人がいますから」 侍女の手元を確認していると、これから伴侶となる相手とは思えない非情な宣告。 これには、茶を用意していた侍女の手も一瞬止まるが、私の視線に気付いたのか、すぐに茶器に飴色の液体を注いだ。 「……かまいませんわ。国同士の結びつきだけが大切ですから。私を愛する必要はありません」 正面に座っている夫となる人物を、まっすぐに見つめる。 すると、私の返事が意外だったらしく、少し驚いたあと、困ったように笑った。 .
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