第1章

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 「一体どういうことなんだ?」  酢イカを机に運んで向き合う形で座った時には、ススムはずいぶんと冷静な気持ちになっていた。なんだか、驚いたり考えたりするのを脳みそが拒否しているみたいだった。  「別に、どうしたこともない。俺は喋れる酢イカなだけだ。」  「普通のイカは喋れないはずだ。それにお前は酢漬けイカだ。加工されてるんだから、ある意味生命としては死んでるはずだ。」  「ああ、そうだな。普通の酢漬けイカは喋れないだろうな。それに俺は死んでるはずだ。だけど、俺は喋られる。ただそれだけだ。人間だって、生まれた時から手が6本あったり、目が4つあったりするだろう?それと同じじゃないのか?俺にだって何で自分が話せるかはわからねえよ。」  イカはさもつまらない質問に答えるようにいった。ススムは頭を抱えた。  「いつから話せたんだ?」  「いつからか。声を意識したのはお前に食われる瞬間だな。だけど意識はこの店に来たときからあった。お前が毎日俺じゃない酢イカを買って食ってるのはわかってた。今日お前に買われた時は身がぞっとしたぜ。死んでるかもしれないけど、俺にとっちゃ活食いだからな。それで、声が出ちまった。」  「お前に口はあるのか?」  ススムはしげしげとイカを観察する。やはり口らしいものは見当たらない。するとイカがまたおどけた声を上げた。  「ないな。でも、こうやって会話できてる。イカをこよなく愛するお前だから聞こえてるのかもな?」  「いや、俺は確かに酢イカは好きだが、別に特別な思い入れはない。」  「おいおい。まじめか。冗談だろうが。」  そういった酢イカにススムはで声を上げて笑った。   イカはまったく動かない。ただ声だけが聞こえてくる。ススムはイカが話してることに疑問を感じられなくなっていった。確かにイカは喋っているのだ。今自身はとても凄い経験をしている。ススムはそんな高揚感に似た思いに包まれていた。  だけど、喋れるイカには理由がある。そんな確信をススムは感じていた。
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