第1章

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   「俺は酢イカだけど、きっとこの世界を変えてみせる。そして、いつか本当にイカが主食になった時、今日の夜の事を発表して欲しい。頼めるか?」  イカは最後にそう頭を下げた。ススムは強く頷いた。酢イカも満足そうに頷いた。それから、なにかを話していたが、ススムは急に意識が朦朧としてきた。時計に目をやるといつの間にか十二時を超えていた。帰らなくてはそう思って立ちあがった瞬間、目の前が真っ暗になった。 △  「店長。やだあ。昨日店に泊まったの?」  聞きなれたパートの声で目を覚ますと、ススムは休憩室でうつぶせになって寝ていた。飛び起きると朝の九時でパートが出勤してくる時間だった。まだ意識がはっきりしなくてなぜ自分がこんなところで寝てしまったのかが思い出せない。  「店長、最近疲れてたみたいだからね。午前中私達だけで何とかなりますから、一回帰ってお風呂はいってきたほうがいいですよ。」  「そうね。店長、そうしたほうがいいわよ。納品も私達で処理しときますから。あら、店長また酢イカが来てますよ。売れないのにねえ。」  ぼうっとしていた頭が、急にピンと冴えわたった。  「酢イカはどうなった?」  急に立ち上がりススムは叫んだ。パートたちはススムがまだ寝ぼけてるのだと思い、笑いながら納品の商品を持って売り場にいってしまった。机の上をみると確かに酢イカを載せたティッシュがそこにあった。しかし、酢イカは居ない。食べた記憶はない。確認のためにゴミ箱を覗いたが、袋のゴミはあっても棒のゴミはなかった。酢イカは行ってしまったのだ。ススムは酢イカのいったことを思い出していた。酢イカはいつかイカを人類の主食にして、報われないイカの死をなくすといっていた。  ススムはすぐにパソコンを立ち上げて、酢イカの語った物語を一言一言逃さぬように文字に起こした。いつか酢イカが革命を成し遂げたとき、すぐに発表できるように。書き終わったススムはワクワクしていた。酢イカが実に素晴らしく家族思いで、偉大な酢イカだったのかを早く皆に知って欲しいと思った。  そしてその日の夜ススムはいつものように仕事を終えると酢イカお供にコーヒーを飲んでいた。まだ興奮冷めやらぬようで、酢イカをいとおしく思って食べていた。するとなにやら視線を感じた。まさかと思い、きょろきょろと休憩室を見渡すと、売れ残ったサツマイモと目が合った。 終
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