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「……?」
ふと気付けば、私は見知らぬ森の中を歩いていた。
足を止め、辺りをキョロキョロと見渡して、まったく覚えのない場所だと再確認。
「森、だよね」
どう考えても砂漠の真ん中には思えないから、森で間違いはなさそう。
それにしても私はどうしてこんな所にいるのだろう?
「早く家に帰らなきゃ…って、あれ…?」
前へと歩を進めた足を、私は再度止める。
「私の家、は…どこ?」
それどころか、私は私が誰だか分からなくなっていた。
記憶喪失。
その言葉が頭に浮かんで、そのままこびり付く。
記憶が欠片もないのだから、これはれっきとした記憶喪失なのかな。
「で、でも、こういうのって確か、思い出だけがなくなったってタイプだよね」
こういう知識が残っているのだから、きっとそうなのだろうと考えて、私は歩き出す。
歩いているうちに思い出せたらいいな、森を抜けて少しでも知っている所に出たらいいな、なんて思ったけれど、私の前には森特有の鬱蒼とした木々が立ち並ぶだけだった。
「ダメだぁ…」
一向に辺りの景色が変わらず、私は疲れて休んでいた。上を向けば枝葉の隙間からオレンジの空が見えて、もうすぐ夕方になることを示していた。
「私、ここで野垂れ死んじゃうのかなぁ…」
私は泥だらけの両手を見つめながら、呟いた。いつ付いたのか分からない赤黒い土は、私の手のひらにくっ付いたまま、取れなくなっている。
「ううん、そんなこと考えてちゃ駄目だよねっ」
勢い良く立ち上がったせいか、私はフラッと立ち眩みを起こしてしまった。
その状態で数歩後ろによたよたと下がって、足をふらつかせ――
「え、」
――地面が、なくなった。
「~ッ!!??」
サァッと血の気の引く音がして、私は声にならない悲鳴をあげながら、意識を失った。
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