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「…おぉい、ダイジョウブ?」
「ぅ…ん…」
誰かに呼びかけられる声がして、私は意識を浮上させた。
「…?」
「テ、いる?」
地面に倒れている私に、手を差し出してくれる誰か。私はその手をとって、ゆっくりと立ち上がった。
周りを見ると、ここは丘の下だった。どうやら私はあの丘から落ちたみたいで、怪我は全くしていない。
目の前に見える断崖絶壁から落ちていたら、きっと死んでいただろうな。そう考えると、自然と心に余裕が持てた。
「あ、ありがとう…」
私はお礼を言いながら、手を差し出してくれた誰かの方を見る。
誰かは、不思議な格好の少年だった。三角の耳の付いた黒いフードを被った、前髪の長い少年。片言、じゃなくて少々特徴的な喋り方をする人だった。
「はじめまして、キミはダレ?」
そして唐突に名前を聞いてくる。そんな彼に、私は苛立ちよりも悲しみが湧いてきた。
「分からないの。私が誰だか、私がまったく知らないの」
口に出すと、余計に悲しくなった気がした。思わずグッと唇を噛み締める。
「わからないの?」
「そう、分からないの」
「じゃあ、キミはアリスだ!」
「………は?」
ついポカーンとしてしまう。何か言おうとして、私の口からは「なんで」という言葉がこぼれた。
「ナゼかって? それはジブンもアリスってナマエだからさ!」
「………えぇ…」
小さな呆れた声は彼…もといアリスには届かなかったみたいで、私は訳の分からないまま『アリス』と命名された。
確かに仮名は必要なんだろうけど、何故か釈然としない私。
「ところでアリス。キミはこれからどこにムかうの?」
「どこ…」
アリスに問われた具体的な質問に、私は戸惑った。そういえば、私には行く宛がない。
「コマっているなら、【AID】においでよ」
「えいど?」
「そう。ジブンもハイってるソシキだよ」
アリスは斜め右方向を指さす。私はそっちの方を背伸びして見たけれど、木しか見えなかった。
「よかったら、ツれてってあげるよ?」
「じゃあ…お願い」
「うん」
ニコリとアリスの口が笑う。
組織というのがどんなものかは分からないけど、私はアリスの後ろについて、森の中を歩き出した。
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