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それにしても、彼の格好は不思議だ。もしかしたら、今現在流行っているファッションなのかもしれない、私に記憶はないから分からないけど。
「ところでアリス」
「え? あ、何?」
特徴的なフードを目深に被るアリスに呼ばれ、私はそっちを見る。目が見えないなぁ。
今更だけど、お互いにアリスと名乗っていたら、紛らわしくないのかな。
「このサキ、ダレかにどうキかれたとしても、ジブンのことをイわないでほしいんだ。ヤクソク…できる?」
「? 分かった、けど」
「そっか。ヤクソク、だよ」
ニィ、と口元が笑った様に見えた。アリスの目が見えないから、どう笑っているかは分からない。
本当に、分からないことだらけ。
それからしばらく歩いて、森林だった辺りが段々とコンクリートに囲まれる町に変わっていった。
アリスは人通りの多い道を避けて、すぐ近くの路地裏から奥へ奥へと進む。
「アリス、ダイジョウブ? こっちだよ」
入り組んだ裏街道を迷わず真っ直ぐに歩くアリスの後ろを、私はたどたどしい足取りで追う。気を抜いたら、転びそう。
「ここだよ、ここが【AID】だよ」
「ここ? わあ…大きい」
アリスの向く方を見れば、何十階もありそうな大きなビルが、天高くそびえ立っていた。
見上げると、四角い灰色のコンクリートがこちらに倒れてきそうな錯覚を起こす。
「このタテモノが【AID】のホンシャだよ」
「本社?」
「そう。だから、ハナれたとこにシシャもあるんだ」
へえ、とビルを見ながら感心していると、私の後頭部に《ゴツッ》と何かが鈍い音をたてて当たった。
「誰だ? 何をしている?」
「えっ」
「振り返るな。さもなければ、撃つ」
その言葉に、私は固まる。冷や汗がじっとりと私の背を濡らすのを感じた。
この人は、撃つ。言葉から隠しきれない程の殺意がにじみ出ている。怖い。
さっと辺りに視線をやる。分かっていたけど、いつの間にかアリスがいない。私を置いて逃げた?
「答えろ。何の目的でここに来た」
怖い。さっき森で落ちた時より、もっとずっと怖い。
「答えろ」
後頭部に当たる何かが、さらに押し付けられた。
私は意を決して、口を開く。
「【AID】に入るためにここに来ました」
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