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「入る、と?」
背後からの意外そうな声と共に、後頭部から、何かが離れた。
私はくるりと振り返る。
「【AID】に入るのか?」
「あ、はい」
右手に銃を持ったその人は、スーツ姿の若い女の人だった。
銃さえ持ってなければ、すごくいい人に見える。銃さえ持ってなければ。
「そうか…ちなみにどうやってここまで来た?」
「え…っと、案内されてきました」
アリスのことは言っちゃ駄目な約束だから、私はそう説明するしかなかった。
我ながら怪しさ満載の説明だったけれど、女の人は溜め息を吐いて銃をしまい込んだ。ちょっとホッとする。
「今月二人目か…。分かった、中で案内しよう」
「あ、ありがとうございます」
「いやいいんだ。あぁあと、私はアカネだ。好きに呼んでくれて構わない」
そう言ったアカネさんは、私の前を歩いて、ビルの入り口を開けてくれた。
アカネさん、かなりいい人かも。何だか気になる事を最初に言っていたような気もするけど。
ビルの中は、シンプルというか殺風景というか…うん、普通。
アカネさんに促され、私は入り口のすぐ近くにあるソファーに座る。小さなテーブルを挟んだ向かい側のソファーに、アカネさんも座る。
「さて。君は…って…すまない、私としたことが、名前を聞くのを忘れていた。名前はあるのか?」
その聞き方って、たまに名前が無い人とかがいるんだよね。私も無いようなものだけど。
「あ…アリスです」
覚えの無い名前を名乗るのって、不思議な気分。
一瞬、アカネさんが怪訝そうな顔をした気がした。
「ええと、アリス。君は【AID】について、何か欠片でも知っているか?」
「いえ、知りません」
何せ、記憶がないのだから。あったら名前くらいは覚えていたのかな。
「本当に? 名前も、何をしているのかも? まったく知らないと?」
ソファーから身を乗り出して、やけに問ってくるアカネさんに、私は少し怯えながらも「はい」と答えた。
私の返答を聞いたアカネさんは、ソファーにもたれかかる。
「そ…うか。じゃあ一から教えよう」
「お願いします」
何だろう、もしかして有名な会社とかだったのかな。
「【AID】は、端的に言ってしまえば殺人を仕事にする組織だ」
「さつ、じ…ん?」
予想を遥かに飛び越えるその言葉に、私はまた固まる。
私みたいなリアクションには慣れているのか、固まった私が動き出すまで、アカネさんは平然と待っていた。
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