Alice of oblivion

5/8
前へ
/8ページ
次へ
「入る、と?」 背後からの意外そうな声と共に、後頭部から、何かが離れた。 私はくるりと振り返る。 「【AID】に入るのか?」 「あ、はい」 右手に銃を持ったその人は、スーツ姿の若い女の人だった。 銃さえ持ってなければ、すごくいい人に見える。銃さえ持ってなければ。 「そうか…ちなみにどうやってここまで来た?」 「え…っと、案内されてきました」 アリスのことは言っちゃ駄目な約束だから、私はそう説明するしかなかった。 我ながら怪しさ満載の説明だったけれど、女の人は溜め息を吐いて銃をしまい込んだ。ちょっとホッとする。 「今月二人目か…。分かった、中で案内しよう」 「あ、ありがとうございます」 「いやいいんだ。あぁあと、私はアカネだ。好きに呼んでくれて構わない」 そう言ったアカネさんは、私の前を歩いて、ビルの入り口を開けてくれた。 アカネさん、かなりいい人かも。何だか気になる事を最初に言っていたような気もするけど。 ビルの中は、シンプルというか殺風景というか…うん、普通。 アカネさんに促され、私は入り口のすぐ近くにあるソファーに座る。小さなテーブルを挟んだ向かい側のソファーに、アカネさんも座る。 「さて。君は…って…すまない、私としたことが、名前を聞くのを忘れていた。名前はあるのか?」 その聞き方って、たまに名前が無い人とかがいるんだよね。私も無いようなものだけど。 「あ…アリスです」 覚えの無い名前を名乗るのって、不思議な気分。 一瞬、アカネさんが怪訝そうな顔をした気がした。 「ええと、アリス。君は【AID】について、何か欠片でも知っているか?」 「いえ、知りません」 何せ、記憶がないのだから。あったら名前くらいは覚えていたのかな。 「本当に? 名前も、何をしているのかも? まったく知らないと?」 ソファーから身を乗り出して、やけに問ってくるアカネさんに、私は少し怯えながらも「はい」と答えた。 私の返答を聞いたアカネさんは、ソファーにもたれかかる。 「そ…うか。じゃあ一から教えよう」 「お願いします」 何だろう、もしかして有名な会社とかだったのかな。 「【AID】は、端的に言ってしまえば殺人を仕事にする組織だ」 「さつ、じ…ん?」 予想を遥かに飛び越えるその言葉に、私はまた固まる。 私みたいなリアクションには慣れているのか、固まった私が動き出すまで、アカネさんは平然と待っていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加