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どんどん遠ざかる彼の背中をボーッと眺めていた。
待ってて
「 3B に冷たいお茶2つお願い。」
突然声を掛けられて、キーを打ち間違えた。
コンコンっ。
「失礼します。」
「・・・あれ?」
誰もいない?部屋間違えたかな・・・
でも電気ついてるし・・
お茶を載せたままお盆をテーブルに置いた。
ふわっ。
「・・・!」
長い腕が私を後ろから包み込んだ。
「ただいま。」
くるっと向きを変えられると、目の前に河野の顔があった。
じっと見つめるその表情は妙に穏やかで、
何が起きたのかまったくついてきていない私を、
さらに置き去りにした。
まずは額へ軽いキス。
次は目を見開いたままの瞼へ。
鼻の先へ。
静かなミーティングルームに私の鼓動だけが響いていた。
「んっ・・」
軽い花びらのようねキスに身を委ねていた矢先、
急に唇をふさがれた。
彼の何気ない一言には、いつもその先に何かがあって、
その時は気づかないのに、後から繋がる。
あの時も
会社を出る前に耳元で囁いて行った、同じ言葉。
私の体が熱くなったのは、
ただ暑い外に突っ立っていたからだけではない。
はっ!
いかん、いかん。
やっと現実に戻った。
はぁー。大きくため息。
河野 亮二に出会ってから、私は
記憶の世界に浸ることが多くなった。
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