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「ん……」
木の葉の間から差し込む日差しに少年は目を覚ました。辺り一面に広がる緑に、大きく口を開けた湖が日差しに照らされてキラキラと揺れている。少年はそんな湖のほとりにいた。
心地よい気候と暖かい日差しにもう一度寝入ってしまいそうになりながら、少年は上体を起こす。
「なんか、体が重い……というか、ここ何処だろう」
真っ白い髪をくしゃくしゃとかきながら、少年は辺りを見渡す。穏やかな湖を囲うように柔らかい草がびっしりと生えている。そしてそのまた周りに背の高い木々が立っていて、視界が非常に悪い。少年は重たい足を上げ先を見ようと試みるが、延々と生え続く木のせいで、先が見えない。
「森……なのかな? 何で僕はこんなところに、ん……?」
ふと何か硬いものを踏んだことに気づき、足元を見る。そこには、傷一つない真っ白な鞘をこしらえた剣が落ちていた。少年はそれを掴みあげ、近くで観察する。全く装飾が施されていない味気ない鞘は使用感が無く、新品同様に見える。長さにして少年の肩から足先までの長さがあり、中々に長い。そして少年はためしに剣を抜いてみる。
抜かれた剣は両刃で、これまた傷一つ無い。刃が全く欠けてないとこを見ると、やはり新品なのであろうか。光る刀身に自分の顔が映り込む。白く透き通った肌に、濃く映える青い瞳。自分の顔も忘れた彼だったが、どうやら自分は気弱そうだ、なんて思う。
「これは僕のなのかな……」
もちろんこんな剣にも見覚えが無い。だが、ふと刀身の下側に何か文字が彫られていることに気づく。そこには見たことのない文字で何か小さく彫ってある。
「ジグルズ……?」
文字が分からないはずなのに、口が自然と動いていた。さながら反射神経のように口から出てきた。まるで、その言葉をよく知っているかのように。
「これが僕の名前なのかな……?ほんとうに?何で僕は何も分からないし、何も覚えてないんだ」
辿る記憶が何もない。少年は完全に記憶を失っていた、自分の名前さえ覚えていない。少し記憶を探る努力をしてみるが、何も思い出せそうにない。何故か残っているのは、胸を刺すような痛みだけである。
「何か大事な事を忘れている気がする。でも、思い出せない……。」
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