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現在、100メートル走の世界記録は9秒52。
これはもちろん、フィジカルブーストを持たない人間の記録である。
新しいトレーニング方法や体制、そして走法が研究され続けているが、それでも9秒50の壁は越えられていない。
どれほど努力をして、お金をかけて、時間をかけたとしても、どうしても限界というものは来てしまうのだ。
常人であれば、それが9秒50という壁だ。
しかし、フィジカルブーストを持つ者はその壁を簡単に超えてしまう。
そう考えれば、確かにとんでもない能力なのだろう。
「Lv.2で5秒台。Lv.3の能力者なら3秒台で100メートルを駆け抜ける。これは時速に換算すれば約120キロメートルだ。君も本気で走ればこのくらい出ているはずだぞ?」
「うわぁ……」
は、速えぇ。
生身で高速道路を余裕で走れるレベルだ、これ。
この能力が発現してから3年、便利な力だと思いながら何気なしに使って生きてきたが、よくよく考えれば凄まじい能力だったんだな。
「さて、以上がフィジカルブーストの基準とレベルの概念だ。理解できたかな?」
「はい、よぉくわかりました」
「そうか、それは良かった。さすがにこれも理解できないと言われたらどうしようかと思ったよ」
そう言いながら再び喉をクククッと鳴らす。
皮肉られているのかと思ったが、その表情を見るに本当に理解できるか心配されていたようだ。
うぅん、なんだかなぁ。
やはり見た目の印象の通りにどこか飄々としていて、掴みどころのなさを感じる。まるで、大空を風に揺られながら漂う雲といった感じだ。
「まぁ、君はこれから訓練を受けるから、フィジカルブーストもまだまだ伸びていくだろう」
「え、でも俺はもう3年も……」
「それはただ漠然と能力を使用していたに過ぎない。どのような目的を持って、どのように使うか……それによって、フィジカルブーストは更に強化されるんだよ」
「そういうものなんですね」
「あぁ、フィジカルブーストの使い方もこれから訓練やらで学んでもらう。もともとLv.3に達しているんだから素質は十分すぎる。君が数か月後、『敵』を相手に一騎当千できる人材に育っていることを期待しているよ」
「……はい、頑張ります」
一騎当千は難しいだろうけど、少しでも多くの『敵』を倒せるようになろう。
言葉に出さず、そう心の中で呟いた。
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