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遠くの空からけたたましい警報が鳴り響いていた。
この警報が伝えようとしていること。
それは、『敵』の襲撃だった。
「光揮(ミツキ)、お前だけでも……」
小さな、それこそ存在を知っていなければ聞き逃してしまいそうなほどにか細い声音。
それは崩壊した壁の向こう側から。
「お父さん!」
光揮と呼ばれた少年は崩壊した壁越しに父親の姿を探す。
酷い砂埃で視界ははっきりとはしなかったが、崩落した天井に挟まれている父親の姿を見つけた。
「声を出すんじゃない。こいつはお前には気づいていない。物音をあげずに隠れていなさい」
父親がそう言い終わると同時に、砂埃の奥から大きな異形の影が現れる。
盛り上がった泥のような体躯。
中央には巨大な口。
その口の周りには真っ赤な血がこびり付いていた。
「ひっ……」
少年はその姿に怯え、半歩後ずさる。
そして、数分前にこの化け物に家族……母親と妹、そして弟を食われた光景を思い出した。
化け物はゆっくりと父親に近づき、自身から生える触手で父親を絡め捕る。
天井に挟まれていた父親は苦悶の声を上げるが、化け物はまるで聞こえていないように強引に引っ張り出した。
「ぐっ……光揮、隠れろ。絶対に見つかるな、お前だけでも生きてくれ」
必死に声を絞り出し、壁の向こうにいる息子に訴えかける。
少しでも横を見れば、大きく開いた巨大な口が自らを飲み込もうとしている。
「光揮、生きろよ。愛してる……」
微笑みながらそう呟き、父親は少年の目の前で化け物に飲み込まれた――。
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