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村上さん、と若葉さんが僕の方を向いて言った。 「お見苦しいところをお見せしてしまって、すみませんでした。あなたに、失礼な発言も……」 僕はこのひとのことを何も知らないが、既に彼に対して好意的な感情を抱き始めていた。 本当は、人前で恋人に手を上げるようなひとではないのだと思う。 「いいえ。気になさらないでください。こちらこそ、無断で恋人をお借りしてしまってすみませんでした」 「彼は、恋人では……」 「若葉」 続きを遮るように、四谷さんが口を挟む。 「この後、時間あるか?」 「……うん」 「ちゃんと、話がしたい。うちに来て」 若葉さん相手に発せられた四谷さんの声には、まるで甘い毒が溶けているようで。 何だか、聞いてはいけない声を聞いてしまったような気がした。
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