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「……佐藤君」 「何ですか?」 「さっき、ありがとう。恋人のふり、してくれて」 佐藤君がいてくれなかったら、若葉さんの誤解は解けなかったかもしれない。 「それは別にいいんですけど。むしろ、ああいった方法しか思い付かなくてすみませんでした」 「いや、たぶんああするしかなかったと思うし。助かりました」 その嘘が少し嬉しかった、だなんて。 到底言えはしないけれど。 「……じゃあ、お礼、もらってもいいですか?」 ささやくように、彼は言った。 「お礼、?」 「ダメ、ですか」 その、わんこみたいな目はずるいと思う。かわいくて、ずるい。 「分かりました。何がいいですか」 「キス」 「え……?」 キス、してもいいですか。 そう言って、彼は微笑んだ。
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