1999人が本棚に入れています
本棚に追加
……あの日、四谷さんと別れた後。
佐藤君と一緒に帰宅した僕は、久々に彼の手料理をごちそうになった。
その味にほっとしている自分を自覚し、何だか怖くなる。胃袋を掴まれる、というのはこういうことなのかもしれない。慣れるな、と僕は自分の胃袋に言い聞かせた。
「村上さん……? お口に合いませんでしたか」
無意識のしかめっ面を解いて、ううん、と笑ってみせる。
「おいしい。ごめんね、帰ってきたばかりでこきつかって」
「気にしないでください。一人分作るより二人分作る方が楽ですし。それに、村上さん相手だと、作り甲斐があります」
「作り甲斐?」
「はい。食事の仕方が綺麗で、見ていて気持ちがいいです。あと、何作っても誉めてくれるし」
単純に、好き嫌いがほとんどなくて食い意地が張っているだけのことだが。
「村上さんのそういうとこ、好きです」
クールな顔が、笑みに綻ぶ。
好き、という一言に。
そんな意図はないと分かっていながらもドキドキしてしまう。
片想いの相手との同居。自分は、現在考えうる限り最悪の状況に陥っているんじゃないか。
僕は彼から視線を逸らして、ごはん茶碗に手を伸ばした。
最初のコメントを投稿しよう!