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……あの日、四谷さんと別れた後。 佐藤君と一緒に帰宅した僕は、久々に彼の手料理をごちそうになった。 その味にほっとしている自分を自覚し、何だか怖くなる。胃袋を掴まれる、というのはこういうことなのかもしれない。慣れるな、と僕は自分の胃袋に言い聞かせた。 「村上さん……? お口に合いませんでしたか」 無意識のしかめっ面を解いて、ううん、と笑ってみせる。 「おいしい。ごめんね、帰ってきたばかりでこきつかって」 「気にしないでください。一人分作るより二人分作る方が楽ですし。それに、村上さん相手だと、作り甲斐があります」 「作り甲斐?」 「はい。食事の仕方が綺麗で、見ていて気持ちがいいです。あと、何作っても誉めてくれるし」 単純に、好き嫌いがほとんどなくて食い意地が張っているだけのことだが。 「村上さんのそういうとこ、好きです」 クールな顔が、笑みに綻ぶ。 好き、という一言に。 そんな意図はないと分かっていながらもドキドキしてしまう。 片想いの相手との同居。自分は、現在考えうる限り最悪の状況に陥っているんじゃないか。 僕は彼から視線を逸らして、ごはん茶碗に手を伸ばした。
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