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結局、鍋が〆の雑炊に突入しても、僕は彼に恋人の有無を尋ねることができなかった。
恋愛の話に移行するのに自然な話題など持ち合わせていない。袋小路に入りかけていた僕に、佐藤君が言った。
「そういえば、四谷さんでしたっけ? その後恋人とは上手く行ってるんでしょうか」
「え? ああ、うん。今日は仕事終わってから会うって言ってたし。順調だと思いますよ」
「そうですか。よかった」
ほっとしたように表情を緩める佐藤君。
「気にしてくれてたんですか。……優しいですね」
「いえ、そんなんじゃないです」
「?」
「恋人と上手く行ってないと、村上さんと飲みに行っちゃったりするでしょう。……それだと俺がつまんないなと思って」
「そ、そうですか」
「はい」
爽やかな笑顔にいたたまれなくなって、僕は視線を逸らした。
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