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全て満たされていたら、誰かを求めたりしない。
自分にはないものを持っている、自分の欠けている部分を埋めてくれるような、そんな存在に、人は惹かれるのだと思う。
「うん、そうだね。きっと」
彼の恋愛が上手く行ったら、僕の恋愛は上手く行かなくなる。
そうと分かっていても僕は、彼の失恋を願う気にはなれなかった。人の不幸を願ってしまったりしたら、たぶん。自分が自分でなくなってしまうから。
「佐藤君」
「はい」
「実は、僕にも今気になっているひとがいるんです」
「え……?」
クールな顔が、乱れた。
思った以上に驚いてくれて、つい笑ってしまう。
「相手には、他に好きなひとがいるみたいなのですが。君に倣って、少し頑張ってみようかなと」
「そう、なんですか」
「はい。……頑張ります」
俺も頑張ります、と微笑む佐藤君の。
どこか複雑そうな表情の意味に、このときの僕は全く気付くことができずにいた。
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