物語の始めは

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 さわさわと風に揺られる木々の音色に紛れて微かな虫の歌声がふわりと舞っては、夜闇に晒されぬるまった空気に溶けていく。 「怖い話を始める時の常套句って、なんだろ」  使い慣れた椅子に腰掛け、勉強机に肘を付いて思考を巡らせる―― 「あっ、そうだ」  語彙の海から適当な一文を探り当て、おれは満足に笑った。 「これは、ある夏の、蒸し暑い夜のこと……」  導入部に誘われ、意識が過去に向かう。  味気ない大学ノートに視線が落とされた時には、おれはもう、あの夏の夜に浸っていた。
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