ある夏の日々

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 白くつるりとしたレジカウンターに置かれた数々の商品の内、重心の低いものを選んでそっと手に取る。 「カードはお持ちですか?」 「…………」  問いかけに表立った答えはないけれど、ちらりと客の表情を盗み見れば、気のないように閉じられた唇が否定を表していた。 「失礼しました」  そのまま滞りなくレジ作業を進め、会計まで終わらせる。 「ありがとうございました、またお越しくださいませ」  最後に頭を下げて、客を通した自動ドアがしっかりと閉まるのを見届けてから、秘かに息を吐き出す。知らずにしていた緊張が解け、肩の力が抜ける。  このコンビニで成田がバイトを始めてからそろそろ三か月が経つ。初めてのアルバイトに対する無駄な気負いも大分薄れ、少しずつ、少しずつ、勤務にも慣れてきていた。 「……よかった。間違えてない、よな」 「どうだろうねえ?」 「うわあっ!?」  突然背後から聞こえてきた声にびくりと体が跳ねた。慌てて振り向けば、そこには人の良さそうな笑みを湛えた中年期の男性が立っていた。 「平塚店長!」 「お疲れ様、成田くん。もう慣れたかい?」 「あ、はい。多分、ある程度は……」 「そうか、ならよかった」  父親と年代が近いこともあるのだろう、よく似た雰囲気を纏う平塚の落ち着く笑顔に、成田も自然と相好を崩す。
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