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あの日の光景や彼女の言葉が、はっきり甦ってくる。
「大丈夫。ついて来い、早く神社まで行くぞ」
このままこうして立ち止まっていても、恐怖心が消える訳じゃない。
また笑わせてその場を和ませる事も出来るけど、それじゃ何も解決しない。
抱き寄せた腕を解き、彼女の肩を掴んで諭すかのように顔を覗き込んで。
「う、うん」
小さく頷いた彼女の手を強く握り締めて、神社の社のある方向へと足を進めた。
頬を撫でる生暖かい風。
ざわつく木々達が、俺達を飲み込むみたいに長い影を落とす。
懐中電灯の先に浮かび上がる世界が、余計に見えないものを宿すように揺れる。
大人になって、子供の頃のような純粋さなんてとっくに忘れ掛けていた。
俺はお化けや幽霊や心霊現象なんて全く信じちゃいないけれど。
彼女を苦しめる何かが存在するなら払拭してやりたい、なんて。
小学生の頃の初恋の女の子。
再会したばかりで、こんな気持ち馬鹿げてる。
かれんちゃんの言う通り、俺、あの頃と全然変わってねぇや。
だから。
あの時彼女に向かって口にした言葉は、大人になった今も、少しも変わらない。
「かれんの事は……俺が守るから」
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