爪先の声

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 いつも彼が担当する小屋の中には、生きた蛇を食べるという悍ましい芸を見せる女の人がいて、大盛況だった。 「あ、あのっ……腕で歩くお兄さんってどこにいるんですか?」 「んん? 彼はクビだよ、お客が君しか取れなかったからな! さ、お金を払わないならどいたどいた! さー寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」  小屋の前で呼び込みをするおじさんには冷たく突き返されてしまった。あまり話さないが、いつもお兄さんの元に通っていたため顔馴染みではあった。  それでもお役御免とばかりにお兄さんを切ったようだった。  しかしこれから芸を教えてくれるとお兄さんは約束してくれた。それに考えたくはないが、一人で生きていくには辛い身体だ、と自分でも分かっている。  きっとどこかにいるはずだ、と子どもながらに希望を捨てず前向きに信じながら、私は休憩室と家を兼ねているらしい大型車が何台も停まっている駐車場に向かった。  巡回するスタッフに見つかってはいけない気がした私は、忍び足でスタッフの網を掻い潜る。幸いサーカスが大盛り上がりで、巡回というよりは物を取りに戻ったりする人間だけだった。 「うっ……え?」  私はそこでサーカス団、見世物小屋の現実を見た。開けたトラックの中から漏れ出す腐臭。その悪臭の原因は、乱雑に荷台に詰め込まれた人間だったモノ達。  いや、中には息があるモノもいるかもしれない。しかし死体の放つニオイとグロテスクな光景は、私に踵を返させるには十分だった。  まさか、このゴミ扱いされた人達の中に、お兄さんがいるはずない。  私はその一台目のトラックから離れ、他のトラックを開いた。  しかしどれも同じような光景ばかり。全てのトラックがという訳ではないが、檻の中に閉じ込められた芸者らしき人が開ける度に出てきて、皆が皆奇形で、私を見ると決まって助けてくれと乞うてきた。  頭がおかしくなりそうだった。こんな環境だったらむしろお兄さんがいないでほしい。 「た、貴子ちゃん……?」  しかし願えば裏切られるのがお決まりの現実というもの。最後から二番目のトラックに、彼が収容される檻を見つけた。
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