失われた因習

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元々隣村で行われた祭の取材に来て、ここにはたまたま立ち寄っただけなのだが、ネタになる面白い伝説が聞けそうだと萱野の取材魂に火が点いた。 「この村では昔は猿を食べたんですか?」 萱野の質問におばあちゃんは大きく頷いて教えてくれた。 昔この村では飢饉のときに猿を殺して食べた。 猿の肉は固いが、脳みそは甘く、柔らかく、一度食べると病みつきになる。 しかも体は元気になる。 その為飢饉とは関係なく乱獲されるようになり、一時期は猿が激減。 それと同時に猿の奪い合いで村人同士が争い、殺人まで発生することとなった。 とうとう猿食はこの村の禁忌となってしまった。 「へぇー。日本にも猿を食べる習慣の村があったんですね」 初耳の萱野は大いに驚いた。 「ああ。猿の脳みそはズズズズズーとストローですすれる柔らかさじゃ」 「おばあちゃんは食べた事があるんですか」 「昔はな。貴重なたんぱく源だった。あれは一度食べるとやめられなくなる」 おばあちゃんは遥か昔の思い出の味が口の中によみがえったようで、よだれがツーッと口元から垂れた。 「そんなに美味しいんですか」 萱野は食べたいと思わないが、取材のためもう少し話が聞けないかとさらに訊いた。
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