失われた因習

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“ザワザワザワ・・・” 周囲の喧騒が聴こえてくる。 萱野は気が付いた。 「あれ? ここは?」 「気が付きましたが?」 目の前には住職、おばあちゃん、女将、その他数人の村人がいる。 「体が動かない!」 よく見るとあのテーブルから首だけ出ている。 首から下は椅子に座り、ロープでグルグル巻きにされているとわかった。 「これ、何の冗談ですか?」 ほとんど分かっているけど、恐怖すぎて敢えて軽く周囲の村人達に言った。 村人の一人が日本酒を手にして、萱野に告げた。 「これを脳みそに注ぐと最高に美味しくなるんだ。そしてお前さんも気持ち良くなる。痛くもかゆくもなく、眠るように意識を失う。いままで何度も実証済みだから嘘じゃない。何も怖がる事はないぞ」 一体今まで何人殺してきたんだ!? それにまだ死にたくないし! 萱野は目の前にいた女将に訊いた。 「もしかして、とんかつに一服盛りました?」 「ええ、ちょっとだけ」 ニッコリ笑って答えた。 不味いと思った。 「すると二人の会話も仕組まれたものだったのか?」 その言葉を聞いたババアと女将は「ヒャッヒャッ」と笑った。 その狂気に萱野は芯からゾッと冷えた。 『本当に生きたまま頭を開けられてしまうのか?』
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