失われた因習

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萱野は「ここから猿の頭を出して食べます」という住職の言葉を思い出した。 あれは過去形じゃなかった。 この村では今でもたまに入ってくる旅人を捕まえては、その脳みそを食べていた。 猿を食べる習慣のある村があるなんて、知らないはずだ。 そんな村が情報を外に出すはずがないのだ。 「では始めよう」 「久しぶりじゃのう」 皆ニコニコしている。 人を殺す罪悪感より、珍味への食欲が勝っている。 「クソー! 死んでたまるか!」 萱野は必死に暴れたが、ロープが全身に食い込むだけだった。 「暴れれば暴れるほどきつく締まるようになっている。大人しくしていたほうがよいぞ」 この村では何百年も行われてきた猿食。 やっている事に慣れている。 猿食を禁じられてから、人間の脳みそへと好奇心が変化してきたのだろう。 例えば敵対する村人の脳みそを、報復のために食べるなどで村内に広まったのかもしれない。 異論を唱えた裏切り者がいれば見せしめに食べて、秘密を守りぬいてきたことも想像に難くない。 一旦禁忌を破ったら、もう元には戻れない。 やがて無理やりこじ開けられた萱野の口の中に、大量の日本酒が注ぎこまれた。 「ウウウ・・・。ゲボゲボ・・・」 かなり度がきつく、萱野の意識はあっと言う間に朦朧となった。 ジ・エンド
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