3人が本棚に入れています
本棚に追加
ユキと過ごした二週間
僕が彼女と出会い、過ごして、そして別れるまでの二週間のことをお話ししよう。
あれは今からだいたい三年前、僕がまだ大学生三回生の夏休み、失恋でふさぎ込んでいた時期だ。一年間も付き合っていた女性から一方的に別れを告げられ、その理由が分からず悶々とした日々を送っていた。
そんな失恋のショックを吹き飛ばそうと、僕は風俗にいくことを決意した。彼女のことしか知らないから、そこまで深刻に悩んでいるんだ。そう同じ大学に通う友人からアドバイスされ、ついでにおすすめの店の名刺を手渡されたのがきっかけだった。
そうと決めてしまえばあとは早い。一人暮らしのさみしい家計の中なんとか貯めた十万円をポケットに入れて、夜眠ることのない東京へと繰り出した。皮肉なことに、そのお金は恋人へのプレゼントにと貯めていたものだった。
夜の十時を回っていたが、帰りはタクシーでいいだろうと思い電車に乗り込んだ。車内にはサラリーマンの姿が思ったよりも少なく、代わりにそこそこいい年をしたおばさんや、いかにもなファッションをしたヤンキーなどが乗っていたのを覚えている。
これから僕がふしだらな店に行って、ふしだらなことをするとは誰も考えていないだろう。そう思うとなんだかおかしくて、同時に情けなかった。
大学の友人に聞いていた通りの駅に降りると、一見普通の都会の一角が広がっていた。しかし、少し感のいい人ならその土地が放つ独特のにおいに気が付いたことだろう。そういう僕も、なんだか雰囲気が違うと肌で感じた。
すっぱいような、むせかえるような欲望のにおいが、その土地そのものにしみ込んでいるように感じられる。それは一つ路地の裏に入ると証明された。
表面だけ取り繕っていた町は、皮一枚剥ぐだけでその本性を現した。色とりどりのネオンが一回の大学生を迎えたのだ。いちいち数えたことがあるわけではないが、一番多い色はピンクだったに違いない。
卑猥な広告や露出の多い恰好をした客引きがそこかしこで存在感を主張していて、僕の居場所はないのではないかという錯覚にとらわれた。
いや、実際に居場所なんてなかったのだろう。僕にできたのは、精一杯憮然としながら目的の店を探すことだけだった。
そうして慣れない土地をさまよっているうちに、僕は彼女と出会ったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!