ユキと過ごした二週間

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 友人に渡された名刺に書いてあった店は、どうやらとっくに潰れていたらしい。そんなことにも気が付かないまま、僕がその異界の中で歩き回っていた時だ。路地裏のさらに奥まったところにたどり着いた僕は、誰かが言い争っているのを聞いてしまった。  普段の僕なら近寄りもしなかったはずだけど、その時の僕はいうなればおかしかったのだ。傷心のあまり思考が衰えていたのかもしれないし、刺激の強い場所を歩きすぎたせいで気が大きくなっていたのかもしれない。とにかく、僕は声がする場所へと向かっていた。 「やめてください!」 「なんだよお嬢ちゃん。ここは大人が来るとこだぜ。それともあれか、逆なんですか? おれのたくましいものでもしゃぶってくれるのかな?」 「ぎゃははは、言い過ぎだってお前」 「やっべ、自分でたくましいとか言っちゃってるよ」 「うっせーなあ」  一つは若い女の声で、あとはガラの悪そうな男の声がいくつか聞こえてきた。三人はいるだろうと当たりをつけたが、実際は四人の男が制服を着た女子高生を取り囲んでいるところだった。珍しく正義感にかられた僕は、その場に割って入っていく。 「誰だてめえ?」  分かりやすいくらいに睨みつけてくる不良。とは言っても僕よりは年がいっていたと思う。 「すみません、彼女は僕と約束してたんですよ。ホテルの近くで待ち合わせしてたはずなんですけど、どうやら迷っちゃったみたいで」 「え、あの……」  とっさの判断で少女の口をふさいだ。ここで余計なことを言われれば、僕のはったりはすぐにばれてしまっていただろう。そうなればその後のことは想像に難くない。  不良の方も言いたいことが多かったらしいが、その前に僕はまくしたてた。 「すいません、ここはおさめてもらっていいですかね。ほら、これ以上騒ぎをおこしてもいいことはないですし。本職の方って言えばいいんでしょうか、そういう人に目をつけられてもうれしくないでしょう?」 「そ、それもそうだけどよ」 「じゃあ、これくらいで手を打っていただけませんか?」  そう言って僕は、ポケットから紙幣を四枚取り出した。一人一万円の計算だ。本職という言葉を出した時点で揺れていた不良は、これが決め手になって引き下がっていった。  上手くいったからいいものの、今思うとずいぶん無謀なことをしたものである。
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