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不良がその場を去ったことで安心したのか、少女はその場にへたり込んだ。それから制服のすそで顔を覆い、静かに泣き始めた。嗚咽に混じるつぶやきは「怖かった」や、それに類するものが多く彼女の心の中は推して知るべきという感じである。
「大丈夫?」
僕が問いかけると、か細い声で「はい」という返事が返ってきた。
その時初めて僕は冷静になって、同時に違和感を感じ始めた。どう考えても、目の前の少女はこの場にふさわしくないのだ。
僕の偏見によると、こういう場所に出入りするのはいわゆるギャルというのがふさわしい。しかも、言い方は悪いがビッチというやつが多いはずだ。しかし、目の前の少女は生娘のように泣き晴らし、挙句は怖かったとのたまっている。手入れのされた黒髪を見るに今まで染めたことなどなかったのだろうし、刺青をしている様子もない。そもそも彼女の肌は、まるで雪のような白さなのだ。すこし日焼けした程度の自分が、まるで南国出身のように思えてくる。
つまり、彼女はこんなところにいるような人間だとはとても思えなかったのだ。
どうしてこんな清らかな見た目の女子高校生が、こんな夜中に色街をうろついていたんだろうか。実は見た目とは裏腹にとんでもない尻軽で、僕が不良を誤魔化すためににおわせた「援助交際」のために来ていたのではないのか。
さまざまな憶測が脳内を飛び交って、それに今まで見てきたネオンの情景が混ざり合い、さらには先ほどの不良の下品な会話が加わって収集がつかなくなってくる。それでも僕は悩み、考え、そしてある結論を出すことに成功した。
考えてみれば簡単なことだ。
「泣いてるところわるいんだけどさ、君ってもしかして家出したの?」
それまで顔を伏せて泣いていた少女が、はっとした表情でこちらを見てきた。その顔にはどうして分かったのとありありと書いてある。
「君ってこの辺りのことに詳しくなさそうだし、見た目もギャルっぽくないし、不良に絡まれて怖かったなんて言ってるから。ここに来たのは初めてか、少なくとも夜に寄り付いたのは初めてなんだろうなって思ってね。それならどうしてこんなとこに来たのはどうして考えたら、家出しかなかたってわけ。大方、クラスの女子が援交だお泊りだって言ってたのを聞いて、自分もそれをやってみようとか考えてたんでしょ」
「……すごい、全部当たり」
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