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翌朝、ソファーで寝ていたせいで僕の首は回らなくなっていた。薄いカーテンのせいで朝日をしっかりと浴びていると、昨日の出来事を次々に思い出していく。恋人に振られたショックから解放されるべく、風俗へ繰り出そうとしたこと。そこで不良に絡まれる女子高生を発見して、なんとか助け出したこと。そしてなぜか、その女子高生をうちに泊まらせたこと。
まるで夢のような出来事だったので、いっそ夢だったんだと結論付ける。すると、後ろのベッドからごそごそと音が鳴り、家出少女が這い出してきた。それを見てようやく僕は、現実を直視させられた。
「やあ、おはよう。意外と寝坊助さんなんだね」
「そ、そんなことないもん。ちょっと昨日は遅かったから……」
そう聞くとなにかやったように思えるが、誓って僕は彼女に手を出していない。さすがにいたいけな高校生に手を出すほど落ちぶれてはいなかった。
寝ぼけ眼の雪を置いて、僕はパンと目玉焼きを焼いていく。焼きあがったパンの上に目玉焼きとちぎったレタスを乗せるだけで、簡単な朝食の出来上がりだ。雪を呼んでテーブルにつくと、彼女は僕が料理をするということに驚いていた。
それからとりとめのないことを話しつつ、朝食はあっさりと終わった。もともとパンだけといっても差し支えない分量なので、食べ終えるのも速かったのだ。男の料理なんて言うのはこんなものである。
朝食を終えると僕たちは暇になった。
僕は暇な文系大学生、彼女は家出中。もともとやることなんんてあるはずもなく、だらだらと時間だけが過ぎていく。
昼飯は何にしようかなーと考え始めたころ、雪がこんなことを言い出した。
「掃除をしましょう」
掃除なんてくそくらえ位に考えていた僕の部屋は、確かに汚かった。かろうじてやっていた掃除機も、恋人に振られてからは久しい存在だ。
「小山さんは僕のお母さんみたいなことを言う」
「ふふ、お母さんです」
「お母さんだー」
こんなしょうもないやり取りが、どうしようもなく楽しい。本来ならば雪のことをさっさと家に送り届けるべきだったのだろうけれど、僕は利己的な理由からその選択肢を抹消していた。
「よし、やるか!」
雪が掃除機をもって、僕がごみを捨てていく。僕たちの記念すべき初の共同作業は、散らかった部屋の掃除というなんともしまりのないものとなった。
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