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美しい四季の巡る都、メイクモルトは現在、春から夏へと移り行く気候の中にあった。
美しい見た目で国民を楽しませた花は散り、木々に茂った緑の葉が作る木陰に度々人が入ってくる。広場の噴水で水浴びをする子供や、流れる汗を拭いながら大きな荷物を運ぶ男が、すぐそこまで夏が近づいていることを実感させていた。
そんな時期に、呪術師カルルは灰色の壁に囲まれた、寒々しい牢の中に入れられていた。中に一枚設置された壁の裏にトイレが在り、あとは毛布が有るだけのひどく殺風景な空間で、カルルは壁に背中をつけて座っている。
「……こんなのはおかしい。こんなことが有っていいはずがない」
唯一壁ではなく鉄格子になっている面に外側から背中を預けている男がうめいた。自分の為に頭を抱えている男に、カルルは苦笑した。
「レイ、言ってやるな。その言葉、もう五回目だぞ」
「しかし、今君が置かれているこの状況はどうしても納得できない。愚行としか言いようがないじゃないか。それとも、君は納得しているのか?」
レイと呼ばれた男はカルルを見ず、少し怒りを孕んだ声を返す。その手には、カルルの入っている牢の鍵。ほんの数分前に自身の手で閉めたその錠を、今にも再び開けそうな様子である。
「さぁな。俺のような呪術師たちが嫌われるのは昔からのことだ。今に始まったことじゃない」
「でも、君自身には何の罪も無い」
「そんなことは知っているさ」
カルルは両腕を頭の後ろで組む。牢の中にいるというのに、レイと違って気楽な様子だ。
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