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「だが、『この状況』は俺たちの王が決めたことだ。だから現状はこれで正しいことになっている。間違っているのなら、すぐに出られるだろうさ」
「……君は楽観的だな」
一度、高い音が何もない廊下に響く。レイが鉄格子を蹴った音だ。
その反動に乗って直立したレイがカルルの方を向く。カルルは動かない。何もない壁を見ているだけだ。
「私がここの看守だ。だから、君たち呪術師の最低限の健康は管理する。君も、生きてここを出られるように気を強く持ってくれ」
レイは宣言する。その言葉に、他の牢の中に入っている者も顔を覗かせてきた。全員、カルルと同じ呪術師である。レイの力強い言葉に、カルルは目を閉じて口角を少し上げる。
「分かっている。俺はここで機を待つさ」
「………」
カルルの返答に納得したのか、レイは大きく頷くと牢の前を離れていった。――と同時に、カルルは牢の中に入ってきた小さな侵入者の足音を聞いた。
「……ネズミ、か」
右目だけ開けて確認する。すると、偶然か故意かカルルとネズミの目が合った。そして、カルルの中に一つの思い付きが姿を現した。
「暇つぶしぐらいはさせてもらうとするか」
カルルから目を逸らさないネズミに対し、カルルは小声で呪術の詠唱を始めた。
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