act.12 回想

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「ダメではありませんが……綺麗なものは綺麗ですから、そう言っただけです。いけませんか?」 「いや、いけなくはないけど……」 本当に変な奴だ。 「ねぇ、あんた名前。何て言うの?」 「私?」 「他に誰が居るんだよ」 呆れてため息を吐くと男は僕に名刺を差し出した。 ――“ユウ” 名刺には、屋号とともにそう書かれており。 書家だとわかった。 「習字の先生?」 「まぁ、そんなところです。お偉方の代書をやったり……ね」 「ふぅん……」 名刺を眺めていると、男が微笑んだ。 「貴方は?」 「……は?」 「名前。貴方の名前は何て言うんですか?」 ……名前。
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