226人が本棚に入れています
本棚に追加
「ない」
「ないって……」
素っ気なく答えると、男が困ったように笑った。
「ないものはない。好きに呼べばいいよ。ポチでもタマでも」
冷たくそう言い放つと男は一瞬だけ迷い、こう答えた。
「“寒波”さん」
「……は?」
「貴方の名前です。好きに呼べばいいって言ったから……“寒波”さん」
……なんでだよ。
男を睨むと、悪びれもせずに返される。
「今夜は寒くなるそうです。ニュースでそう言ってました。寒波が来るって」
「……単純。センスない」
「なんとでも。好きに呼べばいいって言った貴方が悪いんです」
子供のように笑うユウ。
あきれたように笑う僕。
――これが“主人”――ユウとの出会いだった。
最初のコメントを投稿しよう!