act.12 回想

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「ない」 「ないって……」 素っ気なく答えると、男が困ったように笑った。 「ないものはない。好きに呼べばいいよ。ポチでもタマでも」 冷たくそう言い放つと男は一瞬だけ迷い、こう答えた。 「“寒波”さん」 「……は?」 「貴方の名前です。好きに呼べばいいって言ったから……“寒波”さん」 ……なんでだよ。 男を睨むと、悪びれもせずに返される。 「今夜は寒くなるそうです。ニュースでそう言ってました。寒波が来るって」 「……単純。センスない」 「なんとでも。好きに呼べばいいって言った貴方が悪いんです」 子供のように笑うユウ。 あきれたように笑う僕。 ――これが“主人”――ユウとの出会いだった。
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