終章 泡沫の迷宮

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空虚な館をふらふらと歩きまわる。 ユウの――書を書いていたあの部屋の前に立つ。 そっと襖を開け――中に入れば。 和紙が散らばっていた。 その一枚を取る。 かさりと音がして、かすかな墨の薫りが鼻をくすぐる。 『夢とも、現とも、幻とも……』 草迷宮……。 あの日、ユウとの……魂と魂が繋がったような……泡沫の記憶がよみがえる。 かさり。 和紙の音が空虚な館に響く。 着物に残る――ユウの薫りと墨の薫り。 ポタリポタリと。 和紙に雫が落ち、染みができる。
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