第1章

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「無償の愛と聞いて、貴方達は何を思い浮かべますか?」 と学校の授業の最中に教師が余談としてそんな問いかけをしてきた。無償というか、その後半の愛という部分にちやほやと野次がとぶ。まぁ、今時に『愛してる』や『貴方のことを好き』だなんてバカ正直にする奴は少ない。 なんとなくで好きになって、なんとなくで嫌いになる。点と点を鉛筆で書いて、そこに定規で線を書き込んでいるようなものだ。消しゴム一つで簡単に消える曖昧な線だけれど、それに誰もがそれに憧れるが、それにバカ正直、生真面目に取り組むと、そういった気持ちははっきり言って重いと引かれたりする。想いを伝えるのに、重すぎるというのは皮肉か、単なる洒落かと思ったところでプッと少し笑ってしまった。 「あ、三田さん、先生の話、笑ったわね、そうやって笑ってられるのも今のうちなのよ。この年になるともう人生、崖っぷち、周りの人達は結婚してたり、子供ができてたり、そういった自慢話という雑談に話を合わせてフフフと愛想笑いして、『で? そっちはどうなの?』ってわざとらしい質問に『あー、私はあれ、仕事だから、こうみえて高校教師だから、そういった浮ついたことにうんたらかんたら』それに『へー、そうなの。教師って大変よねー』『こうなのよー、だから、恋愛なんて後回し』へっ、お前みたいなモンスターペアレントせいでもあんのよとか心の中で毒を吐いたりしないし、もう愛? 無償の愛、え? なにそれ、無償で幸せにしてくれる男がどこかにいないかしらなんてって、ことは関係ないなわね。ごめんなさい」 先生が一人で語り出して、一人で自爆した。生徒から同情とからかい半分の声がかかる。漫画とかでありがちだけれど、結婚できない三十路の崖っぷち女が担任で、今日はその担任の担当する数学の授業だ。無償の愛と数学がどう関係しているか……はっきり言ってないだろうな。 「先生、無償の愛って、確か神様が人間を愛してるとも言いますよね。神様が人間をいくら愛してもなんの利益もないって言いますよね」 と生徒の一人が言った。 「そうね、それをアガペーとも言うわ。まぁ、神様がいくら人間を愛していたとしても、利益にはならないけれど、それは人間だって同じ、いくら神様を愛する、こっちは信じたとしても利益が生まれることはないから、愛なんて不確定な物なのです」 担当は奇跡でも起きない限りねとそこで咳払いして、
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