第1章

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見ているようなタイミングだ。周囲を見渡してみるけれど、人の気配はしないのがより不気味だ。いつまでも無視するわけにはいかず通話ボタンを押して、耳に当てる。 『もしもし、真由さん、どうして、メールの返信してくれないの? もしかして俺のこと見捨てたの? 嘘だよね。そんな訳ないよね。ねぇ、なんか言って、いや、言わなくていいや、わかってるもん。僕と君との間には赤い糸が繋がっているんだから、だから、だからさ、メールの返信しろよ。僕の愛のメールちゃんと…………………聞いてる?』 ごちゃごちゃうるさい騒音を適当に聞き流していく。どうしてこんなことになったことは思い出したくもない、こうなったのは数週間前、告白してきた男の子に適当な返事をしたら、どこからか電話番号とメールアドレスを調べてきて毎日、毎日、この調子だ。そのくせ私の前にはいっさい姿を見せないから断ることもできないという悪循環、もちろん、メールや電話で貴方とはなんでもないし、もうやめてほしいと断ったけれど、まったく聞き入れるつもりはないみたいだしあまり口答えすると、逆ギレするのだ。 「ええ、聞いてるわよ」 聞きたくないし、今すぐに切りたい。できればお前との縁も引き裂きたい。 『だよねーだよねー無視とかちょー傷つくしさ、だから、だから!! 俺のメールとか着信にはすぐでろよ!! 俺との愛情を感じろよ!!』 いきなりの怒鳴り声に思わず携帯を耳から遠ざける。耳鳴りがした。今も携帯かはらあいつの怒鳴り声が聞こえてくる。不愉快だった。 もしも、ここに一本のナイフがあったとするから私はどうするだろうか。 あの男を刺し殺すために使うか。 自分の命をたつために使うか。 あの男の声を聞こえないように耳を切り落とすか、あの男が声を出せないように舌を断ち切ってしまうか。 いや、私はそれをしない。そういった想像をしていても決して実行に移すことはない。良心の呵責というわけでもないし、言い訳でもなく、私があの男のために何かを失うのが嫌なだけ、あの男がある日、突然、発狂しようが、死亡しようが私の心はこれっぽっちも痛まないが、あの男ために何かを失うようなことが嫌だ。 耳を無くすことも、舌を奪うことも、 自殺することも、他殺することも、 どちらもゴメンだ。 まっぴらゴメンだ。被害者にもなりたくないし、加害者にもなりたくない。勝手に死んでほしいそれだけ、
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