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できる限り私とは無関係な場所で死んでほしいそれだけ、もしくは、私が壊れるか、あの男が離れるか賭けているのかもしれない、崖のこちら側と向こう側に一本のロープを繋げて私はその一本のロープで綱渡りの最中なのだ。落ちれば壊れる、渡りきれば壊れない。
まぁ、比喩なのだけれど、これがいつまで続くのか私は楽しんでいるのだ。ゲームのようなものなのだろうと思うとクスクスと口元が緩む。だから、少しゲームを盛り上げよう。
「ねぇ、お願いがあるんだけれど」
男の怒鳴り声を遮るように私は言う。もしも怒鳴り続けてたらどうしようかと思っていたが、男はあっさりと怒鳴ることをやめて、
「なっ、なんだい? お願いって」
鼻息が荒い、下心が見え見えだ。お願いだからって自分に都合のいいようになるわけないはずなのにね。
「貴ない。方が私のことを好きだということはよーくわかったの」
それこそ重たいくらいに、なら、その想いがどれだけのものか試させてもらおう。
「ほっ、ほんとかい?」
「ええ、本当よ。だから」
夕暮れ時の校舎の廊下で私は言う。
「貴方の右手の人差し指から小指まで全部、切断してくれない? もちろん、自分でよ」
電話越しで男が息を呑むのが聞こえた。思わず笑いそうになる。私は何もしない、これは男が勝手に指を切断するだけ、単なるお願い。
「できないの?」
「…………そ、それは」
「できないのね、散々、好きだ何だと怒鳴り散らしておきながら右手の指を切り落とすこともできないなんて、貴方の気持ちはその程度というわけて残念だわ、もう、電話もメールもしないで」
「わ、わかったよ」
「…………」
わかった? 何を?
「や、やればいいんだろう? 右手の指を全て切断すれば」
好きになってくれるんだろう? と、男は言った。
「ええ、もちろん、証拠として通話を切ってはダメよ。あとはその証明のために写真を撮りなさい」
数秒間、荒い吐息が聞こえ、ゴソゴソと刃物を研ぐような音が聞こえ、
「…………いっ!? あっ、あぁぁぁあ」
グチュグチュと肉が断ち切られる音が耳を通り抜けていく、本当にやるなんてまぁ、いいか、どうせ、私が好きになることなんてないんだし。今頃はメシッメシッと骨を砕き、その切り裂いた部分からとめどなく血が溢れて、男の呻き声が聞こえてくる。痛みに耐えるために脂汗をかいているのかもしれない。
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