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まっすーがいなくなっても日々は続いていく。
時が経つにつれあれだあけ辛そうな表情を浮かべてたクラスメイトの大半は笑顔を見せるようになっていた。
好きだった錦戸くんとはあれ以来もう話していない。お互いに後ろめたさから話せなくなった。
山下くんはまっすーの死を受け入れられなくて暴れてしまうから、どこか遠い病院に行った。
初めと変わらない関係なのは、シゲとけいちゃんだけ。
「手越、エクレア買ってくるけど、手越は何か欲しいモノある?」
「…………けいちゃんって、根っからのパシられだよね」
「な、なにを!俺はねぇ、手越がお腹空かないようにって心配してるんですよ!」
「あはは……けいちゃんらしいや」
「手越……?どしたの」
「ん、どうもしないよ……。俺、カスタードクリームパンね」
「あれ、手越って甘いもの嫌いじゃなかったけ?克服したの?」
「うん、今日ぐらい大丈夫、食べたいんだ」
「…ぁ………珍しいねー」
けいちゃんはなにかいいかけたけど、とっさに笑ってごまかしてカスタードクリームパンを買いに行った。
気づいたのかな。
まっすーがよく食べてたカスタードクリームパンだってこと。
今日はなんとなくまっすーに会いたくて。なんとなくまっすーがよく食べてたカスタードクリームパンを食べてみたくなった。
撤去された机の違和感にも慣れて、みんながまっすーを忘れても、俺だけは。
最後の一人になっても俺は愛してくれたまっすーを忘れないでいたい。
そしていつか、夢の中で会えたなら、まっすーに謝って謝って、笑ってもらいたい。
許されなくていいから、ただもう一度笑って欲しい。
「手越、はい。カスタードクリームパン」
「……ありがと、けいちゃん」
売店から帰ってきたけいちゃんからカスタードクリームパンを受け取る。
古臭いフォントで書かれた『カスタードクリームパン』の文字にふと懐かしさがこみ上げる。袋をあけてカスタードクリームパンを取り出して一口かじる。
「……甘っ」
甘くて甘くて気持ち悪くなるぐらいなカスタードクリームパンに不意に涙が落ちた。
「……っ、めちゃくちゃ甘ぇ…。甘ぇよ…。こんなんの良さなんて一生、わかんねぇよ…」
カスタードクリームパンは甘かった筈なのに、いつの間にかしょっぱくなっていた。
それでも俺は食べ続けた。最後のカスタードクリームまでちゃんと。
頭に浮かぶまっすーの笑顔に涙しながら、ちゃんと、最後まで。
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